矩月

 日差しも随分と柔らかくなってきました。ということで柔月というのはどうでしょうか。友人と食事の約束をした際、友人宅近くにある新京成電鉄の軌道敷に目が留まりました。場所は新京成線の八柱駅と常盤平駅の間で、近くに21世紀の森があります。線路の脇に御影石の塊が2つありました。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、新京成電鉄の軌道敷は旧陸軍の鉄道第二連隊の演習用のものでした。戦跡に興味のある方ならば、陸軍に御影石とくれば「陸軍境界標柱」ではないかと思うことでしょう。鉄道第二連隊の軌道敷は旅客用線にするためにショートカットされた部分もいつくかあります。私が御影石を見つけた場所も、そのショートカットに当たる部分と思っていましたので、ただ建築物に使った石の残りが置いてあるだろうくらいにしか思っていませんでした。少し前のまだ茹だる様な暑さの時でしたらそのままスルーしてしまったことに違いないでしょう。しかしこの日は御影石が私を呼んでいるような気がして仕方がありませんでした。近くに行って木の棒で土に埋もれた部分を彫ってみると、確かに「陸軍」の文字が石に刻まれていました。土に隠れて自分の存在が見えなくなっていることに耐えられなくなった標柱がたまたま近くを通った自分に助けを求めたような気がしてなりません。このできごとを人に喩えると、自分に余裕がない時は気遣わなくてはいけない時にそれができていないことが分かります。私を頼りにしてたのに、送られてきたその信号に気がつかず相手を傷つけてしまうことがあるやもしれません。誰にでも柔らかい頭と柔らかい心を持って接することの出来る毎日を過ごしていこうと思います。
垢月      柔月     11月