オブジェの向かいにあった和食レストラン「リトル・ジャパン」である。ここイギリスに来て、和食らしいものといえばリージェント・ストリート近くのすし「クルクル」とヴィクトリアのスーパーそばの軽食で食べたケチャップソース味のライスであった。日本に帰るまで待てない。ということでJAPANという文字に惹かれて店に入っていった。中には若い東洋系のお姉さんがいた。もちろん日本人だと思った。
ピカデリーサーカスのロンドン三越以来の日本語が聞けるぞ、うれしいなぁ。ところが「いらっしゃいませ〜」の声が無い。日本人が入ってきたんだぜ。喜んで声をかけてくれると思っていたが、空気が変だ。
すしとヤキソバとヤキメシと野菜炒めをたのんだが、復唱する言葉を聞いて「あっ」と思った。ジャプリッシュなのである。ようするに英語圏の外人さんの発音そのものなのである。途中でイギリス人男性が入って来て、「コンニチハ、アツイネー」とジャプリッシュで入ってきた。「ソウダネ、スブタライスネ、ソレトライトコーラネ。」店員さんはにっこりと微笑んでうなずいている。言葉は返さないのである。しばらくすると私たちの注文した品が小さなエレベーターのようなものでカウンターのところに来た。お姉さんはそれを私たちのテーブルに運んでくれたのである。イギリス人男性の注文したものも同様にカウンターに来た。よく考えるとお姉さんは聞いたはずの注文を誰かに伝えることはしていないのである。きっと2階で日本語の分かる人が注文を聞き、調理して下に降ろしているのだろう。
加えて片言の日本語が通じる(と思っている)ことに喜びを感じているお客さんとどうにか切り抜けた店員さんの安堵の様子も見てとれたのである。イギリスに入国する時、パスポート確認と渡英目的を聞く係の方がいた。インド系の若い女性だったが、どうもイントネーションがおかしく聞きづらい英語であった。人間というのは相手を過大評価してびびっているところがあるようだ。このことを通してコミュニケーションは意欲的にしなくてはいけないことを学んだ。
最後に、お姉さんに「タンキュー」と言ったら、安心した様子で「タンキュー」と返してくれた。 |