稲 子 湯

 メルヘン街道を走っている途中で秘湯「稲子湯」の話(民宿いでで宿泊中の方から聞いた)を思い出し、行ってみようと思った。
 クネクネ道をしばらく進み、稲子湯の駐車場に着いた。湯上りの方たちが気持ちよさそうな顔で帰って行く。「よし、俺も」と思ったが車から降りることができなかったのである。車のドアが壊れた訳ではない。私の車はトヨタのイプサムでクリーム色だがすこしパールタイプである。そう、昆虫というのは紫外線に敏感で集まる習性があるものがいるという。停車した私の車に「コツン、コツン」とぶつかってくる物体があるのだ。よくみるとスズメバチの集団であった。湯上りの方たちが私の方を見て、「お気の毒に」といった表情で通り過ぎて行く。この状況で車から降りる勇気はない。命がけで秘湯に入った男なんて、少し間抜けな気がする。約十分の間スズメバチが去るのを待ったが、ずっこコツンコツンとぶつかってくる。私のイプサムが雌バチに見えたのだろうか。
 車の中から上の写真を撮影し、再びメルヘン街道へ向った。 グスン…。