おかずめし 

 あれは,私が25の時だった。うまれて初めての一人暮らしをしたのである。当時私は大変貧しく,実家から持ってきた炊事道具はたったの一つ。26年前(つまり今から43年前ね)に新婚当時の両親が使っていた2合炊きの炊飯器であった。
 ガス台 → ない。
 やかん → ない。
 冷蔵庫 → ない。
 缶きり → ない。
 お茶も沸かせないので水を飲みながら,炊きたてごはんと惣菜で胃袋を慰めていたのである。

 ある日コロッケを買い,道の角の所で転んでしまった。そして愛しいコロッケちゃんも運命を共にしたのだった。
 「おぉ,そんなに汚れていない,まだ喰えるかもしれないぞ」と思って拾おうとしたら,角を曲がって出てきた自転車の兄ちゃんが気付かずに轢いていってしまったのだ。コロッケの轢死体を前に「これは食えないねぇ」とつぶやきながら,後片付けをした。もちろん私の口には入らず,台所の生ごみ入れがコロッケの墓場となったのだ。

 どうしよう。ご飯は炊けている。台所にいわしの缶詰(実家から持ってきた)はあるが缶きりがない。おとなりさんは出かけている。缶切りを借りれない。台所の上には醤油があった。私はソースを買う金がなく,コロッケにも醤油(実家から持ってきた)をかけていたのである。
そのしょうゆと炊きたてご飯でどうしたか?

 1.釜のご飯の3/4を飯茶碗に盛る。
 2.残りのご飯で醤油飯を作る。
 3.醤油飯をおかずに白い飯を食う。

 以上である。
 バターが1かけでもあれば高級感が増すのであるが,この時はそれもなかった。
飯をおかずに飯を飯を喰う。うん、懐かしい思い出だな…。