幸せなとき…高校時代3

  文化祭も終わり、陸上競技部に入部することになった。

 短距離は全ての種目の基本ということで最初の一ヶ月は短距離ブロックで練習を重ねた。流し、加速慣性走、ストレッチなど当時初めて聞く言葉ばかりでこの先やっていけるのか心配であった。

 入部して三週間後に今年度最後の長距離のみ以外の記録会があるという。入部したばかりの私も出場してよいという。何に出ようか考えたが、短距離はいやだ。投げるのがいい。槍投げは5人いる。円盤も4人もいる。砲丸はかっこ悪い。
 部室の砲丸ラックの上に爆弾のようなものがあった。何であろうか。砲丸の形をしているのだが出っ張りがあって3pほどのツルのようなものがついている。今にして思えば自分のスポーツ人生を変えたハンマーとの初対面であった。ハンマーと取っ手を結ぶピアノ線がハンマー側の結び目のところで切れていたのである。しかしハンマーなどというものをやろうという気などさらさらなかったしハンマー投げという種目の存在すら知らなかったのである。

 部の仲間が「背筋力が強いからハンマー投げに出たらどうかな?」もちろん、陸上競技をはじめたばかりの者が取り組む種目ではない。スピードなし、筋力なし、技術なし、試合経験なしのなしなし尽くめで記録会に出るのでは部に迷惑かけることは間違いない。まして、我が母校は槍投げでは毎年関東大会に出場しているくらいの高校で、投擲種目で恥をかく訳にはいかなかったのである。

 さて、友達に自尊心をくすぐられた私である。自慢ではないが陸上競技部に入部する前から背筋力だけはあったのだ。たしか210sだったと思う。そしてその気になってしまったのだ。顧問の先生に「先生、俺ハンマー投げに出ます。」確かこう言ったと思う。「出たいのでお願いします」ではないのだ。なんという奴だろう。

 「悪いことは言わないから、今回はやめておけ。」という説得に折れ、200mに出ることになったのだ。それも引退した先輩のスパイクを借りてである。
できたばかりのぶかぶかのユニフォームに体を通し、東京都の立川陸上競技場で陸上選手としてのデビューを飾ったのである。その後様々な種目の講習会があって、たまたまそこでハンマー投げのコーナーもあったので迷わず参加したのだ。
 そして…


   
Copyright Yukitank All Rights Reserved.